FUKUSHIMA ONDO, Shosuke Nihei, Kailua Camp

Kanzan Curatorial Exchange 「緯度温度 vol.2」

岩根愛「FUKUSHIMA ONDO」

キュレーター:原 亜由美

協力:菊田樹子

プロジェクション協力:岸本智也

 

2018年 11月17日(土)- 12月2日(日)

12:00-19:30/日曜17:00まで/月曜定休/入場無料

 

助成:公益財団法人野村財団

 

 11月17日(土)

OPENING TALK : 17:00-

小林美香(写真研究者) × 岩根 愛

RECEPTION : 18:30-

 

11月28日(水)

TALK 2 : 19:00-

港千尋(写真家・著述家) × 岩根 愛

 

岩根愛の個展「FUKUSHIMA ONDO」を開催いたします。岩根愛は2006 年以来12 年にわたって日系ハワイ移民のコミュニティを訪ね、とりわけ夏に催される「ボンダンス」に魅了されて作品制作を続けてきました。本展は「ボンダンス」で踊り継がれる「FUKUSHIMA ONDO」を伝えた日系一世の記憶を現代に重ねる視点で、写真集『KIPUKA』収録作品にて構成されています。

 

 

Kanzan Curatorial Exchange「緯度温度」 vol.2

岩根愛「FUKUSHIMA ONDO」について

 

本展のタイトル「FUKUSHIMA ONDO」は、ハワイの日系移民たちの盆ダンスで、今なお歌い踊り継がれる代表的な曲の名である。岩根愛は盆ダンスに魅了され、2006年より12年にわたってハワイ取材を続けてきた。夏の3ヶ月間、ハワイ各地で催される盆ダンスを追いかけながら、彼女の興味は盆ダンスを伝えた日系移民一世へと及ぶ。当時、日系移民の大半はサトウキビ農場での労働者であり、苦労の多い生活下において盆ダンスは束の間のハレであると同時に、祖先や故郷とのつながりを意識する機会でもあった。

メインイメージのシリーズは「FUKUSHIMA ONDO」の歌、踊り、太鼓、笛を伝えた一世の4家族である(注1)。当時の居留地にそれぞれの家族写真を投射して撮影された。時間を越え、記憶の土地で彼らと向かい合い、視線を合わせる必然に彼女は駆られたのだろう。その日系移民一世、二世たちが汗を流したハワイの製糖業も、近年は他国にその拠点を移し終幕を迎えつつある。一世一家の肖像と並ぶのは、マウイ島に残された最後のサトウキビ畑だ。

現代の盆ダンスの熱狂と日系移民一世の記憶を橋渡しするのは、溶岩流や植物に侵食された墓石のシリーズである。太平洋を隔てた遠いハワイの地で、風化しつつある日本の墓石を思いがけず目にした岩根は、以来ハワイ各地の一世の墓を精力的に撮影している。これらシリーズはいずれも、忘れられた、あるいは知られざる歴史やつながりを浮かび上がらせつつも、現在に過去の時間が取り込まれており、そこに彼女の写真家としての視点があるように思う。

こうした撮影に至るまで、岩根はひたむきなフィールドワークとリサーチを繰り返している。ハワイの「FUKUSHIMA ONDO」のルーツを探る困難は言うまでもなく、墓石やサトウキビ畑も同様、一朝一夕でたどり着けるものではない。今回の展示に含まれる岩根の作品は、概ね近接し捉えられたイメージで構成されている。余白的な遠景をなくした風景や背景を落とした盆ダンスの踊り子たちなど、一見場所がどこなのかわからないものが多く、手がかりとなるモチーフも日本のようであり外国のようにも見える。それらのイメージの連なりは、何かに夢中になって時間や場所を忘れてしまう感覚を想起させる。それはいかに深く彼の地に接続したか、彼女の没入感の表れでもあろう。そして彼女のひたむきさが詰めた距離を思うとき、見る者は一転して俯瞰的な視座を得る。サトウキビ畑や墓石が、失われつつあるものの記録ではなく、人為が自然に還る経過、あるいは再生を繰り返す循環のイメージを切り取ったものだと気づく。海を隔てたパラレルな土地における循環が「FUKUSHIMA ONDO」を媒介に、過去と現在、ハワイ、福島をつないで重なる。

岩根は本年「FUKUSHIMA ONDO」等を収録した初の作品集『KIPUKA』を発表した。本展は『KIPUKA』からの作品を中心に「FUKUSHIMA ONDO」を伝えた日系移民一世の記憶と風景に注力して構成している。作品集で3見開きを費やして収められた作品を2点、幅約5mのパネルで中央に配した。2018年5月に噴火したハワイ島キラウエア火山の溶岩流を捉えた映像作品「Fissure 8」(注2)は新作で、本展において初の発表となる。

 

本展キュレーター:原亜由美

 

(注1)1868年より約22万人が日本からハワイへ移民として渡った。「FUKUSHIMA ONDO」を伝えた4家族の作品は以下。

作品No.16「FUKUSHIMA ONDO」の太⿎、唄を伝えた渡邊富次郎⼀家/マウイ島ケアフアキャンプ跡地

作品No.17「FUKUSHIMA ONDO」の踊りを伝えた阿部アサ⼀家/マウイ島プウネネキャンプ跡地

作品No.18「FUKUSHIMA ONDO」の唄を伝えた⼩林忠⼀⼀家/マウイ島ケアフアキャンプ跡地

作品No.19「FUKUSHIMA ONDO」の奏者たちを取りまとめた⼆瓶ショウスケ⼀家/マウイ島カイルアキャンプ跡地

(注2)Fissure は亀裂の意。

 

 

岩根 愛

写真家。東京都出身。1991 年単身渡米、ペトロリアハイスクールに留学。オフグリッド、自給自足の暮らしの中で学ぶ。帰国後、アシスタントを経て1996 年に独立。雑誌媒体、音楽関連等の仕事をしながら、フィリピンのモンテンルパ刑務所(2010)、ロシアのニクーリンサーカス(2011)、台湾の三峡台北榮民之家(2012)など、世界の特殊なコミュニティでの取材に取り組む。2006 年以降、ハワイにおける日系文化に注視し、2013 年より福島県三春町にも拠点を構え、移民を通じたハワイと福島の関連をテーマに制作を続ける。2018 年、初の作品集『KIPUKA』(青幻舎)を上梓。

http://www.mojowork.com/


「緯度温度」

場所と距離の位相をとらえるための写真展シリーズ全2 回。同じルーツを持ちながら離れた土地で営ま

れるひとびとの生活を撮影する二人の写真家の個展を通じ、差異と類似を含んで並置されるイメージが

呼び起こすものについて考える企画。
キュレーター:原 亜由美

 

 

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