Exhibitions
kanzan Curatorial Exchange「Spacing」 vol.3
木下令子「序層|Inceptive Layers」
2026.5.23 Sat - 7.5 Sun
キュレーター:小池浩央
kanzan galleryではこのたび、時間と空間について考える展覧会シリーズ、kanzan Curatorial Exchange「Spacing」 vol.3 として、木下令子の個展「序層|Inceptive Layers」を開催いたします。シリーズタイトルの「Spacing」はフランスの哲学者ジャック・デリダが自己触発的な時間化の運動について述べた「間隔化=空間化(espacement)」の英訳ですが、そこでは時間が切れ目なき直線ではなく、隔たった今のあいだの離散的な関係のようなものとして捉えられています。
木下令子はこれまで、日焼けした紙、日光によって感光した印画紙、布地に刻まれた皺や折り目など、すでにそこに存在する(=与えられた)痕跡に対して、スプレーガンから拡散される霧状のアクリル絵具を吹き付けて絵画作品を制作してきました。そうして付着した粒子は、そこにある皺や折り目を際立たせると同時に、新たなイメージを呼び込むきっかけになっています。紙や布地に刻まれた痕跡は、決して固定された時間や終着点ではなく、そこから別の時間や認識が立ち上がってくる場所となっています。
今回の作品「序層|Inceptive Layers」は、作家がしばらく離れていた、カーテンのないアトリエの窓に掛けられていた暗幕に焼きついた、太陽光による色褪せによってできた像と対峙した経験から始まっています。それゆえに、近年続けてきた「絵画作品の展示」という形式からはやや距離を取り、「面」「像」「貌」が現れる以前と以後を結びながら、それらが生まれるまでの状態や時間を空間の中で取り扱おうとしています。そこでは絵具によって固定された痕跡は主題ではなく、「以前」と「以後」を繋ぐ蝶番の役割を果たします。消えゆくものをどのように受け入れ、見送り、どのように一時的に留めうるのか。これまで時間の流れに介入することで制作してきた彼女は、その限界にも自覚的であり、触れた瞬間に壊れてしまうようなもの、自身の手が届かないまま過ぎ去っていくものにはそもそも介入することができず、また時にそれが暴力的な行為にも感じられ、不安になることがあると言います。新しい像が生まれるとき、同時に死へも向かっている。永遠への敬意を持ちながらも、消滅を避けられない現実とどう向き合うのか。あらゆる写真が太陽に属するものでありながら、その太陽の有限性にも思いを馳せるとき、その作品は、死すべき我々の有限性をも示しているのです。
kanzan Gallery
Profile
⽊下令⼦ きのした・れいこ
1982年熊本県⽣まれ。2009年、武蔵野美術⼤学⼤学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。「うつろう時間の経過を絵にすることはできるだろうか」という問いから、光や時間がどのように⽀持体へ滞在し、像として留まりうるかという考察を軸とした制作を⾏っている。感光や⽇焼け、皺、折り⽬などの不可逆的な変化を起点に、スプレーガンによる描画や光による定着を⽤いながら、像が⽴ち上がるまでの時間や、固定される以前の状態を扱っている。
主な個展に、「Reframing」(LIVE ART GALLERY、東京、2025)、「Unnamed hours」(SUCHSIZE、⼤阪、2025)、「潜像」(GALLERY crossing、岐⾩、2021)、「空の気配」(照恩寺、東京、2019)、「⽇の中の点」(清須市はるひ美術館、愛知、2015)など。
主なグループ展に、「Big sleep」(Masumi Sasaki Gallery、東京、2025)、「slide / shift」(千總ギャラリー、京都、2024)、「The Imperceptible Revealed」(AIFA、ヴェルビエ、2022)、「⾔葉でもなく、イメージでもなく、」(krautraum、東京、2021)など。
小池浩央 こいけ・ひろひさ
武蔵野美術大学大学院映像研究科修了後、フランス・ナント美術大学にてアーティスト・リサーチャー、エストニア芸術大学にて講師。エストニア・タリン大学大学院博士課程在単位取得退学。専門は写真論・フランス現代思想。研究テーマは、ジャック・デリダの概念的遺産に基づく写真における遅延・喪・贈与についての考察。主な論文に「Lein ja fotograafia: Jacques Derrida fototeooria」(Etüüde nüüdiskultuurist; 9, 2021)、「The noeme of photography: the paradigmatic shift in the photographic theory of Roland Barthes」(Kunstiteaduslikke Uurimusi / Studies on art and architecture, 28 (3-4), 7-26., 2019)。



